昨夜は苦しい夜だった。
つま先が夜の海に浸かっていて、どうしてもそこから抜け出せないという気持ちだった。ものすごく寂しい夜を人がどうやって乗り越えるのかわからない。眠れたらいいのだけれど、悲しいことに私は睡眠薬があんまり効かない。窓際の机に座ったまま、延々と曲を聴いて夜明けを待った。
聴いたのはキリンジのDrifter。
この曲はパブロくんが教えてくれた。これを聴くと私のことを思い出すのだ、と言ってくれたのだ。その言葉を思い出しながら、命綱を手繰り寄せるみたいに繰り返し流した。曲を聴くために流しているのか、パブロ君の言葉を思い出すために曲を流しているのかどちらかわからないけれど。
「僕はきっと素面なやつでいたいんだ」という歌詞がすごく耳に残った。私はもうずっと素面でいたことがないから。これを書いている今も、スパークリングの白を一本飲み干してまだ飲み足りなくて、ハイボールのロング缶に手をつけたところである。
今日は『ザ・メニュー』という映画を観た。
ある高名なシェフの特別なディナー・コースを食べるために、選ばれた数名がシェフのレストランのためだけに存在する孤島へとでかけていく。だがコースが進んでいく中で、シェフの、あるいはレストラン自体の様子がおかしいことに客は次第に気が付き始め……という話。
資本主義と一種の労働疎外についての話だったように思う。ミッドサマーに影響を受けたのでは?という構図が続き、ラストを鑑みてもそういう雰囲気ではあったのだけれど、とにかく結構面白かった。
サービスに金銭を支払うとき、金銭を支払ったのだから許される、という図式は起こりやすく、それはやがて金銭を支払えばサービス提供者の心をおざなりにしても許される、というところまで極まってしまう。最高傑作を提供しても、それに向き合ってはもらえないし、ましてや最高傑作に触れることができるだけの自分を演出するためだけの空間として消費されてしまうということ…。
そんなセンシティブな本題とは逸れて、おいしそうなコース料理がたくさん出るのでとってもお腹が減ってしまった。途中で出たひれ肉がっとってもおいしそうだったなあ。